体に触れない診察では患者は満足しない

医師が、一度も患者の体に触らずに診察をすることがあります。この医師の行為は、看護師や医療従事者にとっては、それほど驚くべきものではありません。しかし、患者は「全く体に触らないで診察するなんて......」と、もの足りなさを感じるに違いありません。

 

人間は、本能的に痛みを感じる部分に手を当てます。また、痛んでるところを誰かに優しく触ってもらうと安心することもあります。この行為は、看護の基本といえますね。

 

手を当てて!

医師と患者とのある会話
とある外来での診察の場面です。60歳のAさんは、膝の痛みが強くなってきたため、整形外科を受診しました。

 

医師:今日はどうなさいました?
Aさん:最近、右膝の痛みがだんだん強くなってきまして......。

 

医師:そうですか、膝の痛みですか。かなり強い痛みですか。
Aさん:すごく強い痛みというわけではないのですが、階段を上ったり、正座をした後にずきずき痛むというか・・・。

 

医師:どのくらい痛みが続きますか。
Aさん:そうですね、30分から1時間くらいです。

 

医師:ほかに何か症状はありますか。
Aさん:特にないです。

 

医師:今までに大きな事故やけがをしたことはありますか。
Aさん:特にそういったことはありません。

 

医師:ちょっと膝を見せてもらえますか。特に外見的には、腫れたり変化したりしているということはないようですね。それではまずレントゲンを撮ってみましょう。

 

そして、Aさんは両膝をレントゲン撮影しました。

 

医師:う-ん、右の膝の軟骨が少し擦り減っているようですね。それほどひどい変化というわけではありませんが......。
Aさん:そうですか....・・・でも浦むんです。

 

医師:変形性膝関節症ですね。まあ、加齢に伴う変化でしょうから、湿布と揃み止めを処方しますので、それで様子を見てください。
Aさん:はあ...

 

医師:あまり膝の揃みが強くなるようでしたら、間接にする注射もありますから、いつでも言ってください。日常生活では正座をしたり、階段を上ることは、できるだけ避けてください。
それでは、1週間後にまた来て様子を見せてください、お大事に。

 

これで診察は終了しました。

 

 

体に触れない診察は不安を与える

これは、ごく日常的に行われている診察の様子で、医療従事者ならそれほど述和感は感じないかもしれません。

 

しかし、Aさんはこの診察に対して非常に強くもの足りなさを感じていました。

 

何がもの足りなかったのでしょうか。それは、「膝が痛い」と訴えたにもかかわらず、医師が一度も膝に触れなかったことに対してです。

 

Aさんは、「膝が浦い」と訴えたのだから、膝を曲げたり伸ばしたり、もんだりコツコツたたいたり、当然そういう診察をしてもらえるものだと思っていたのです。

 

それなのに、ただレントゲンを撮って湿布と痛み止めをもらって帰るだけなんて....。

 

これなら、薬屋に行って湿布と揃み止めを買ってきたって同じこ
とじゃないか......。Aさんはそう思ったに違いありません。

 

この医師は診察のなかで、問診、視診、検査による膝の状態の確認を行いました。そのうえで「変形糊緊関節症」という診断をして、湿布と鎮痛剤を処方しました。それ自体は普通の診察内容で、特に問題はありません。

 

にもかかわらず、患者さんの満足度が低かったのは、膝を動かして診るという触診をしなかったからです。それでは、もし触診をしたとしたら、診断や処方内容は変わったのでしょうか。

 

このケースでは、診断も処方も変わることはなかったでしょう。つまりは、触ってもらえなかったという一点で、患者さんに不満を与えてしまったのです。

 

スキンシッブは看護の基本

病気やけがに対する処世を一般に「手当」といいます。痛いところに手を当てるという行為は、人間にとって本能的な行動です。

 

腰やおなかが痛い時は手でさするでしょう。頭が猟ければ手で押さえるはずです。

 

手でさすったり、押さえたりという行為には、全く根拠がないというわけではありません。手で押さえることによって生じる適度の圧迫が、筋膜の緊張をほぐします。それだけでなく、手の温かさが作用して痛みが軽減されるという効果もあります。

 

また、スキンシップをとることによって、安心感や信頼感が得られるというのは、誰もが認めるところでしょう。気分が悪い人の背中をさすったり、悩んでいる人の手を握って話を聞くという行為は、それ自体、本当の解決策にはならないかもしれません。

 

しかし、安心感や信頼感を与えるという点では、高い効果があります。

 

痛いと言っている人をただ観察するのではなく、一歩前に出てさすったり手を握ったりすることは、手当の基本です。これは、看謹にも通じるものではないでしょうか。

 

もちろん、手を当てただけですべてを解決することはできないし、そういうことを嫌がる人もいないわけではありません。なかには、注射ひとつ打ってもらえれば、それで十分だという忠者さんもいたりしますが......。

 

どうしても触れてもらいたい患者さん

急性腰痛症で入院した患者さんを前に、医師がレントゲンの所見を説明していました。すると、患者さんが突然医師の話をさえぎり寸上着をたくしあげ、こう言いました。

 

「先生、そんなことはいいから、早く腰を診てください!」

 

医師はがく然としていましたが、私は密かに笑いをこらえていました。

 

こんな時も、看護師として患者に向き合うときの悩みかもしれませんね。