勤務中の息抜き

 

夜勤は忙しいと座るヒマもなく終わってしまうことがありますが、少しでも休憩がとれればみんなで夜食をとりながら、とりとめもなく話したりするのがとても楽しいものです。

 

三交替の場合、とくに深夜勤務帯にはいくらかの休憩がとれるので、なにがしか食べるのはどこの病院でも同じだと思います。夜勤は、二人ないし三人で行なうことが多いのですが、三人の場合は、それぞれが主食、おかず、デザートを担当して持ち寄るやり方をしているところも少なくありません。

 

一般の職場では、お弁当を持ち寄るなんて、なにかの行事でもない限り、あまりしないことだと思います。もちろん、病棟でもおよそ一時間の昼食休憩には、院内食堂やお弁当とめいめいに摂ります。

 

しかし、女性だけが夜中に連携して仕事をする病棟の夜勤では、共に仕事し共に休憩するなかで、こまかい労わり合いが、楽しくスムーズに過ごすポイントになります。

 

準夜勤務は、あわただしく業務が進み、ゆっくり夕食を摂ったりすることも少なく、休憩室に腰を落ち着かせることもあまりないので、持ち寄ったりする頻度も低いのですが、深夜勤務では、患者さんの容態の変化などなければ、比較的休憩時間がゆったり確保できます。

 

深夜勤務の長さによって違ってきますが、およそ一時間半くらいは取れるのではないでしょうか。私が以前にいた病棟も、深夜勤務ではなんとなくこの持ち寄り制になっていました。

 

ある深夜勤務のことです。一緒に夜勤する二人と打合せるヒマもなく、自分で勝手にデザート担当になり、なしとぶどうを三人分持っていったことがありました。

 

二人とは、何度か一緒に夜勤をしたことがあり、彼女らは主食とおかずを持ってきてくれるのだろうと踏んでいました。出勤して休憩室に入ると、一緒に夜勤をする二人が私のあいさつにも答えず、
「あなた、まさかデザートでも持ってきたんじゃないでしょうね!」
といきなり不機嫌に聞いてきます。

 

「ええ、今日のデザートはくだものなどどうかなーと思いまして」二人とも先輩です。
「え?くだもの?」なにか、雰囲気がおかしいなと思っていると、二人はバッグをごそごそとやりだします。そして、テーブルにみんなが持ち寄ったものが広げられ、三人全員がくだものを持ってきた事実が判明したのです。

 

なしとぶどう、バナナとみかん、そしてグレープフルーツとキューウイが、八百屋のように小さいテーブルの上に飾られました。

夜勤 看護師 仕事

 

誰が悪いというわけでもありません。しかし、くだものだけで、深夜を過ごすと思うと腹が立つのでしょう。
先輩の片方が、「おにぎり、しかも中身はすじこ。それから味噌汁。ねぎととうふのやつ。うーん、カップメンでもいいなあ。四角い焼きそばとか。サラダなんかもつまんで。そして最後にミルクプリンでデザート。」と、夢見るようにむなしい希望を言います。

 

もうひとりの先輩は、腕を組んだまま、目の前のくだものをひとつひとつうらめしそうにみつめたままです。

 

そういえば、二人ともこのところハードな勤務がつづいています。疲れているので、たぶん、深夜勤務の夜食のひとときをささやかな楽しみにしていたのかもしれません。

 

いちばん若手の私が、もっと気を遣って、主食やおかずを持ってくればよかったのかもしれませんが、いまから後悔しても間に合いません。

 

「それにしても、こんなに重なるのもめずらしいですね。発想が似てるんでしょうかね。」場を和ませようと思い、言ってみます。

 

「へらへらしないでよ。重なるなら、まだ、主食だけとか、おかずだけのほうがましよ。くだものだけってのは、いちばんたち悪いわよ」
「そうよ!あなたまでくだものとはね」
先輩たちは、ぜんぜん機嫌が直りません。

 

そこへ、若手医師が入ってきます。「今日の深夜さんは君たちですか-。ぼく、当直です、よろしく。あっ、すごいくだもの!いかね、え夕ーザンの食事みたいですね-。いいなあ、豊かな感じで、バナナ、ぼくにも一本くださいねぇ。」

 

医師の呑気な言い方に、先輩二人はカチンときたのか、彼にここぞとばかりに当たります。
「先生!バナナは六本全部をさしあげてもいいですよ。そのかわり、急変なんか起きてもうろたえたりせずに、ちゃんと対処してくださいね。いつも、いつも、私たちに頼ってばかりでは、こっちも疲れますからね」
「そうですょ!外にふらっと食事になんかいかないで下さいよ。当直医の責任というものがあるんですから、甘えたりしないでくださいよ」

 

医師は、どうしてこんなに先輩二人が機嫌が悪いのかわからないようで、普段はのんびり屋さんの彼ですが、カチンときたようです。

 

「き、きみたち。そんな言い方はないんじゃないかな。もっとカルシウムでもとって、イライラしないようにしたほうがいいんじゃないんですか?こんなくだものだけじゃなくて、からだの温まるスープとかね」

 

医師には先輩たちのイライラの原因がまだわかっていないようです。
「こんなくだものばかりになっちゃったから、イライラしてるんじゃないの。あたしだって、ジャコのたくさんついたおにぎりとか、カルシウムたっぷりのシャキッとしたものを食べたいわ」
先輩が、バナナの房ごとどさっと投げるように医師に渡します。
「きみたちぃ」
「なによ!」
先輩二人と医師の三人は、大きな声を出し、狭い休憩室のなかでとうとう立ち上がって、にらみあってしまいます。

 

「なによ、あなたたち。どうしたの?あら、こんなにくだものばかり…・・・」記録をしていた準夜勤務の主任が、何事かと入ってきます。

 

私は、主任を休憩室からさっと連れ出し、事の一部始終を説明しました。すると、主任は手を叩いて笑いながら、休憩室へと入っていきます。

 

「あなたたちl、そんなにかりかりしないで頂戴。ちょうど良かったわ」
まだ、そっぽを向いている先輩たちと医師をよそに、主任は冷蔵庫からなにかを取り出します。

 

なにか、とはなんと、鍋ごとのポトフと大きなフランスパンでした。
「主任!どうしたんですかあ、こんなに-。おいしそうI」私はわざとオーバーに喜んでみせます。

 

先輩たちは、はじめは意地になってその鍋を見ようとしませんでしたが、ちらちらと見はじめ、次第に顔がほころんできます。

 

「これね、今日は準夜だから食べるひまはないと思ったんだけど、たくさん作っちゃったもんだから、一応待ってきたのよ。やっぱり食べれなかったから、深夜さんに食べてもらおうと思ってたの。よかったー。先生もぜひ食べてね」

 

主任は、とても豪快な人で、ときどき、こんなふうに鍋ごとのシチューや豚汁を持ってきたりします。サラダなんかもボール一杯のまま運んできます。両手に抱えて、タクシーで病院まで乗り付けるのです。

 

医師は、先輩に当たられたのが余程おもしろくなかったのか、バナナを抱えたまま、ぷいっとどこかに行ってしまいましたが、私たちが休憩をとる午前三時半ごろに、ほかからのお裾分けのサラダを手にふらっとやってきました。

 

かくして、先輩二人の機嫌は直り、休憩時間には、あたため直したあったかいポトフとフランスパン、そして、サラダといった理想的な夜食をみんなで楽しく食べることができたのです。

 

もちろん、たくさんのデザートつきで。私は、このことを教訓に、深夜勤務時の夜食には、とても気合いを入れて準備するようになりました。

 

ずっとあとになって、先輩二人があのときに機嫌が悪かったのは、単に食べ物の問題ではなく、患者さんの尊厳の問題で医師との葛藤があったことがわかりました。お弁当、好みのスナック菓子、胃にもたれないインスタントのお粥、定番のおにぎりやカップメン、スープ類、ゼリーやョ-グルト、などなど、最近は、持ち寄り方式ではなく、それぞれが自分用のお弁当なりを持ってきて食べる傾向にもあるようです。

 

いずれにしても、看護師は夜食ひとつにも、工夫をして、こだわりをもって、なるべく気分よく仕事ができるように心がけています。

 

ある先輩に、いるだけでその場の雰囲気を明るくする人がいましたが、彼女は、おもしろい薬品名などを薬品の点検をしながら歌ったりすることがありました。

 

「ニコリン、ニコリン、頭のよくなるニコリン!」

 

ニコリンとは、脳代謝賦活薬で、脳卒中により麻簿のある方や脳障害による意識障害のある方などに使用される注射薬です。
この薬を手にとりながら、彼女が楽しそうに口ずさんでいると、こちらもニコリンが患者さんにとても良く効くような気がして楽しくなったものです。

 

私は、薬品名では、怪獣を連想する名前がとても好きで、グルカゴン、プレドニゾロン、ソセゴンなどを準備したりするときには、余裕のある状況なら、自分で何度も復唱して楽しんだりしています。

 

看護師がナーススーテションで笑っていたりすると、面会の方などに不謹慎だとお叱りをいただくこともときにはありますが、患者さんたちのことを笑っているのではなく、シビアで重い内容の仕事だけに、それにめげないように、たとえば薬品名や食物のことなどのささいなことで笑って、息を抜いているだけなのです。緊張ばかりが続いては、やっていられませんからね。

 

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