論文構成−書き方−

症例研究の場合

表紙の書き方
  • 論文の種別:どのような種類の研究であるかを書きます。一番大雑把なのは、「看護研究」という書き方です。その他に、「症例研究」 、「事例研究」 、「調査研究」、「実験研究」 、「文献研究」などという書き方もあります。また、「卒業研究」というのもありますが、これは学生専用です。

    さらに、「因子解明的研究」 、「因果関係解明的研究」 、「状況解明的研究」 、「状況対応規定的研究」、「仮説検証的研究」などという書き方も可能でしょう。論文題名( タイトル):論文の中身・内容を一言でいい表したものです。研究テーマと混同しないでください。

  • 所属:正式なものを、省略せずに、正しく書きます。共同研究者の全員が、同じ所属で、同じ地位、同じ立場であれば、研究者氏名の前に雷いても構いません。

    しかし、所属が異なったり、地位や立場が異なるときには、氏名の最後の文字の右肩に小さな数字を添え、全員の氏名を書いた後に、それぞれの所属・地位・立場をまとめて書く方法もあります。

  • 氏名:この研究論文の責任者・最後まで責任をとる人を、最初に書きます。この人を筆頭執筆者といいます。他の人が、批判をしたり、引用したりするときも、最初に書かれている人の名前で行います。共同研究者が大勢いるときは、肩書きや地位が上の、偉い人ほど後に書くのが、論文の型です。

    したがって、もし婦長さんの名前が最初に書いてあると、最終的な寅任(誤字・脱字を含む)は、婦長さんにあることになります。また、次々と発表される研究の最後に、いつも婦長さんの名前があると、部下をよく教え導き育てていると評価されます。さらに、自分が中心になってやったわけでも無いのに、師長さんの名前を最初に書かせると、その師長さんは、部下の研究業績を横取りしたことになります。

 

目次の書き方

論文の中で、どのような項目が扱われているかが、わかるようにします次構成を細かく作ると、自分が、どのような論文を書こうとしてい
るのかを、確認することができます。論文の見出しを書き出すだけで、目次構成ができます。

 

「はじめに」の書き方

この論文に、何を書こうとしているのかが、読む人にわかるように書きます。口頭発表用演説原稿の場合は、これから何を発表しようとしているのかが、聴く人にわかるようにします。

 

起承転結を使うと書きやすくなります。

  • 起:問題を、大きくとらえて、提示します。「問題提起」となります。この研究の「意義」と「性質」が示されます。
  • 承:自分が、なぜ、その問題に注目し、取り組むことにしたかという、「動機」を書きます
  • 転:その問題は、今までに、誰によって、どのように追究され、何が明らかになっているのかという「今までの研究の成果」を、具体的に、かつ、簡潔に示します。
  • 結:研究のポイントをどこに絞るのか、という「範囲」と、何を明らかにしたいのか、という「目的」を書きます。どこまで扱えるか、という「限界」も含まれます

「カッコ」の中に入っているのは、「はじめに」の中に要求されている、必要な要素です。
これを転、結、承、起の順で書いていくと、簡単に書けます。この順で書けないということは、文献調べもしていないということで、研究になっていないことを意味します。

 

「T.疾患の説明」の書き方

患者さんは、常に、何らかの疾患によって、苦しめられています。その疾患を、正しく理解したとき、初めて、看護を正しく考えることができます。
疾患を理解しないままの看護は、存在しません。その疾患を説明する情報としては、

  • 疾患の原因、
  • 疫学と頻度、
  • 診断、
  • 治療法、
  • 検査所見の特徴、
  • 使用される薬物と副作用、
  • 経過と予後、
  • 後遺症、
  • 頻度の多い合併症、
  • 安静度と食事療法

などがあり、その疾患特有の看護があるなら、それも入れます。

 

「U.患者の紹介」の書き方

客観的なデータを示すつもりで書きます。
患者さんの状況・条件・背景が異なれば、当然のこととして、対応も異なってきます。

 

患者さんの身体的側面・社会的側面・精神的心理的側面を、過去・現在・将来の時間軸の中で、簡潔に示します。
身体的側面の中には、現在までの経過、現在の状態が含まれます。

 

「V.看護の実際」の書き方

看護的なかかわりや展開が、具体的にどのようになされたのかが、細かく示されます。必要な要素として、

N e e d s のC h e c k m : N e e d s )

患者さんには、どのようなn e e d s があるのかを書きます。記載されていないものは、 c h e c k 漏れと見られます。

患者さんが訴えること( S : S u b j e c t i v e D a t a )

患者さんが訴えることを、そのまま書きますが、臨床上の優先順位に配慮する必要もあります。

客観的な資料( 0 : 0 b j e c t i v e D a t a )

客観的なデータです。ここには、下位分類があります。

  1. 看護独自の目で得たもの
  2. 医師の治療方針
  3. 検査結果
  4. バイタルサイン

ここまでの情報が、全部次のA s s e s s m e n t の資料となります。

看護診断・査定( A : A s s e s s m e n t )
  1. 現状の認識このA s s e s s m e n t によって、患者さんの実像が、 厳密に把握されます。
  2. 問題点の指摘患者さんのもつ問題が抽出され、看護上の問題点が指摘されます。看護上の問題点には、治療上のものも含めてもよいのですが、中心に置くのは、患者さんの療養生活上の問題点です。

    特に、解決すべき問題点が中心となります。患者さんのもつ「問題」と「問題点」とを、区別する必要があります。たとえば、高齢者には、「高齢である」という図問題」があります。しかし、「問題点」ではありません。「高齢である」という「問題点」を解決したら、どうなるのでしょう?

看護目標( G : N u r s i n g G o a l s )
  1. 看護目標に要求される条件

    看護が展開された後、患者さんは、いつごろまでに、どのような到達点に達するのか。患者さんは、いつごろまでに、何を達成するのか。
    看護目標の主語は、「患者さんは、。。 、」あるいは、「患者さんが、。。」と常に患者さんです。
    看護目標は、観察、または、測定によって、確認することが可能な、具体的な形で示します。時期を明示しながら、具体的に示すことによって、目標となり得ます。看護目標は、看護方針を立案するための、基盤となります。
    特に、論理的な誤謬(たとえば、「術後合併症を予防し、異常を早期に発見する。 」とか、「放射線療法を理解させ、安楽に放射線治療を受けさせるよう援助する。 」など)を犯すことの無いように、注意が必要です。

  2. 当初目標
  3. 中間目標
  4. 最終目標

それぞれ、到達可能、達成可能な形で、目標は設定される必要があります。特に、ターミナル・ケアの際の、表現に配慮する必要があります。

看護方針( C : N u r s i n g C o u r s e )

看護者は、患者さんが、その到達点である看護目標を達成するために、どのような方向づけを行い、患者さんに、どのように働きかけていくのかの、基本方針が示されます。医師の治療方針にそったものである必要があります。
この看護方針は、看護チーム全体として、一貫性・統一性・整合性を、保つためのものです。
看護行為の道標となり、看護計画の中の、具体策を考える指標ともなります。

看護計画(具体策: P : N u r s i n g C a r e P l a n s )

患者さんに対して、具体的に、何を、どのように行うのか、が示されます。
この看護計画の下位分類には、次のものがあります。

  1. 観察計画

    O b s e r v a t i o n a l P l a n です。観察し、チェックを行うための計画です。

  2. 処置計画

    T h e r a p e u t i c P l a n です。治療や処置に関する計画です。

  3. 教育指導計画

    E d u c a t i o n a l P l a n です。患者さんが、自己管理のために、知っておくべきことの、指導・教育に関する計画です。

  4. 家族関係の計画

    F a m i l i a l P l a n です。家族、 その他の関係者に関する計画です。特に、ターミナル・ケアのときに必要になるものです。

看護計画は、なぜそう考えたのか、その根拠は何か、常にそう考えるべきなのか、などを検討する材料となります。
この「看護計画」が、他の研究における「仮説の役割」をします。

看護実践行為一経過と処置- ( I : I m p l e m e n t a t i o n )

看護計画が、どのように実践されたのかを、具体的に示します。使用する機材や、細かな手順、ポイントとコツなども、重要な情報です。

  1. 看護計画に基づく行為

    看護計画に基づいて、看護の独自の行為として行ったことです。

  2. 医師の指示に基づく行為

    医師の指示で行ったことです。

  3. 患者の要求に基づく行為

    患者さんの要求で行ったことです。そのため、看護記録には、それぞれを、区別できるようにしておく必要があります。

結果

看護が展開された結果、患者さんはどうなったのかを書きます。ここでは、事実を、客観的なデータとして提示します。なぜ、そのような結果になったのか、看護計画との因果関係を検討する資料とするためです。
結果がないのは、やっぱりなしということです。
結果にも、次のようなものがあります。

  1. 看護計画による行為の結果

    看護計画に基づいて看護の独自の行為として行われたこと0 n ) に対応する結果侭n ) です。

  2. 医師の指示による行為の結果

    医師の指示に基づいて行ったことq d ) に対応する結果侭d ) です。

  3. 患者の要求による行為の結果

    患者さんの要求で行ったことq p ) に対応する結果侭p ) です。

評価( E : E v a l u a t i o n )

評価をするものには、3 種類あります。

  1. 看護目標達成度の評価

    患者さんは、到達点に達することができたか否かの評価です。看護目標は、達成されたのか否かの評価です。

  2. 問題解決度の評価

    看護目標ではないけれども、患者さんの解決を必要とする問題点は、解決されたか否かの評価です。

  3. ナーシング・プロセスの評価

    看護行為を中心に、看護過程の全体的な評価です。

フィードバックしたもの( F : F e e d B a c k )

看護過程の中で、評価したものに基づいて、何をフィードバックしたのか、それは、なぜかなどを書きます。ここから次の看謹の展開が始まります。

 

 

「W.考察」の書き方

考察の中心になるのは、理論的な検討です。
自分がかかわり、展開してきた看護と、その結果として得られたものは、どのような因果関係があるのか。どのような意味と価値があるのか。

 

それが、看護学の体系の中で、どのように位腫づけられるのかなどを、他の研究者の論文にある結果と、照合・比較・検討します。そして、看護計画で示した考え方の、正当性・普遍性・妥当性を論証します。

 

そのための具体的方法として、次の順で行うと、整理しやすくなります。

  • 起:患者さんが得た結果を解釈し、説明し、評価を行います。
  • 承:患者さんが得た結果と、看護計画との関連と因果関係を説明します。
  • 転:文献との照合。特に文献の中にある結果と、自分達の看護によって、患者さんが得た結果との比較を検討します。
  • 結:自分達の看護計画における考え方の普遍性・妥当性を主張できるか

否かを検討し、看護計画の正しさが、立証できたか否かを論証します。

 

「V.結論」の書き方

この研究の結果から、何を主張し、何を提案したのか、を述べます。

 

この結論は、看護界全体に対する、「新しい仮説の提示」となります。この結論について考え、検討し、結論の追試・再試が行われ、結論の正当性・普遍性・妥当性が確認されると、法則性を備えた一般論となり、単なる1 例の報告ではなく、1 つの定説となります。結論が無いものは、研究論文になりません。

 

「まとめ」の書き方

この論文の中に、何を書いておいたのかを、簡潔に、箇条書きで示します。この「まとめ」は、「はじめに」に対応するものです。

 

忙しい人は、まず「はじめに」を読み、何を書こうとしているのかを把握し、次に「まとめ」を読み、何を書いておいたのかを把握し、自分がこれから読むべきものであるか否かを、判断します。

 

「はじめに」を読んでも、訳がわからず、「まとめ」もしてないような論文では、後回しにされてしまいます。症例研究の場合には、次のような基本パターンにしたがうと、書きやすくなります。

  1. ○○病の○歳の男(女)の1 例について、その看護経験について述べ、これを検討した。
  2. 本症例は、 A 、 B 、 C 、 D 、 E 、 F 、などの看護上の問題点を有していた。
  3. それに対し、 A ' 、 B ' 、 C ' 、 D ' 、 E ' 、 F ' 、 。。を試み、 A " 、 C " 、D " 、 E " 、 ・・・の結果を得た。
  4. しかし、 B ' 、 F ' 、 ・・。・についてはよい結果を得られず、その原因は、 B ' ' ' 、 F " ' 、 によるものとみられた。
  5. そこで、 B " " 、 F " " 、 。。を試み、その結果はB ' ' " ' 、 F " であった。
  6. 従来このような場合には、α、β、。。が定説とされていたが、そのことを改めて確認した(疑問に思った) 。さらに、新しい試みとして、γ、6 、。。を行ったが、その効果は。。である。
  7. まだ、 a 、 b 、 c 、 d 、 。。の問題が残されているので、さらに追究をする必要がある(別に報告する) 。

事例研究・調査研究・実験研究・文献研究の場合には、次のような基本パターンにしたがうと、書きやすくなります。

  1. ○における○の問題を取りあげ、これを追究した。
  2. 方法としては、 ○に関しては○を行った。また、 ○には○を行った。集計の際に、○と○に関してはF - 検定を、○と○に関しては相関関係を、 ○と○とに関しては、 X 2 - 検定を行った。
  3. その結果、○、○、○、○、。。という結果を得た。さらに、○と○、○と○、○と○の間に、有意の差を認めた。しかしながら、○と○、○と○の間には有意の差は認められなかった。
  4. 以上の結果から、 ○は○と密接に関係があることが明らかになった。また、○と○との関係を突き止めた。さらに、○は○によって変動することが明らかになった。しかし、○と○との関係は、未だ明らかにできなかった。これらのことは、○の述べている○理論を支持する結果である。

 

謝辞の書き方

謝辞は、本文ではありません。したがって、謝辞には、見出しをつけませんし、「目次」に書くこともしません。そのため、原稿用紙に書くとき
は、5 マス分く・らい下げて書き、本文ではないことが、すぐわかるようにしておきます。

 

この研究でお世話になった人々に、感謝の気持ちを込めて、一言ふれておくのが、エチケットです。「指導者」として、謝辞の対象にあげるときには、その人が、論文だけでなく、研究全体(方法論やアプローチに至るまで)に、責任をもってくれる人をあげるべきです。「指導者」として名前を出すと、指導者としての評価がなされるからです。

 

文献リストの書き方

文献リストは、この論文が、どのような学問的な根拠に、基づいているのかを示す、重要な部分です。したがって、文献リストの書き方が間違っていると、それだけで学問的なレベルを、疑われます。

 

文献リストの中身・内容は、

  • 雑誌に掲載された論文の場合:執筆者、論文題名、掲載雑誌名、巻、号、頁、発行年。
  • 書籍・単行本の場合:著者、書名、(シリーズとナンバー) 、版、刷、頁、発行所、発行年。

の順で書きます。

 

本来は著者・執筆者の名前を、全部A B C 順に並べ、それを本文の中で指示するのが、正式な方法です。しかし、最近では、簡便な方法として、本文の中で使ったものは、引用順に並べ、参考文献のみを、 A B C 順に並べる方法が認められています。

 

文献リストは、研究計画を立てる段階で作ります。論文が完成したら、改めて整理し直します。

 

「おわりに」の書き方

従来の形の「おわりに」は、看護学生専用のものです。したがって、学生以外の人が、従来の形の「おわりに」を書くのは誤りです。研究論文に、従来の形の「おわりに」は、不必要です。

 

学生が、指導者に対して、自分自身の成長や変化を報告し、反省と、今後の自分のありかたや、決意を表明するものとしての意義があります。学生以外の人が、従来の形の「おわりに」を書くのは、特に要求された場合(たとえば、「看護部教育担当長」とか「看護教育委員会」で、「卒後プログラム」を立て、その成果を確認したい場合など。 )のみです。

 

 

     

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