ナース患者の心の動きはがん治療で特に学ぶべき!

「サイコ・オンコロジー(PsychoOncology=精神腫瘍学)」という、比較的新しい学問・臨床分野があって、癌と心の関係を研究し、治療に生かしていこうというもの。日本では癌患者に対するメンタル・ケアが遅れていたのですが、サイコ・オンコロジーに関心を持って、積極的に学んだり採り入れようとしています。

 

最近、日本でも癌の告知率が上昇しつつあるそうです。一つにはインフォームド・コンセントの重要性が周知されてきたため。もうつは世の中に情報があふれていて、現実問題として病名を隠し通すのが難しくなってきたためだといわれています。

 

厚生労働省の調査では、がんセンターをはじめとする各地の中核病院では、すでに告知率70%を超えているとか。もちろん、まだ告知に消極的な病院や医師も少なくないのですが、流れとしては告知を当然とする方向に向かっていると言っていいでしょう。その結果、医療関係者達は「癌患者のメンタル・ケア」に無関心ではいられなくなっていますね。

 

 

癌治療の第四の柱

癌は重篤な病気で、手術や抗癌剤など心身に多大な負担をかける治療を受けねばなりません。いったん治癒しても、再発・転移の不安がつきまとうのが癌。

 

ある癌専門病院の調査によると、末期癌を除く患者全体の、何と47%に何らかの精神症状がみられたとか。大半は「抑うつ気分」や「適応障害」で、約70%。残りの30%は、「うつ病」や「不安神経症」など。ほかにもいくつかの大学病院などが、癌患者の心の病気に関する調査を発表しています。病院によって数値は多少違うのですが、だいたい10%ぐらいの患者は心の病を併発していて、ごく軽いものまで含めた「うつ」と「適応障割が二大疾患であるようです。

 

そのあたりに着目し、精神的苦痛の緩和に取り組むのが「サイコ・オンコロジー」。一応、精神科や心療内科の領域なのですが、内科・外科系の医師やナースでも、「今後、ますます重要になる」と考えて勉強している人が少なくないです。心の状態は、癌の治療効果や治療後の経過にも大きく影響します。

 

一般的な人でも「精神状態がよくないと免疫機能が低下する」ことはよく知られていますよね。つまり、うつ病などの心の病を放置すると、治るものも治らなくなってしまうのです。正常な精神状態の場合と比べ、進行が速いという研究発表もあります。

 

逆に精神状態が良好であれば、免疫機能が強まり、治療効果も上がる。そういった意味から、「サイコ・オンコロジーは外科手術・化学療法・放射線療法に次ぐ、癌治療の第四の柱になる」と言っている精神科医もいるほどです。

 

説明は受け止め方に注意

サイコ・オンコロジーで「臨床で応用する時のポイント」になりそうなものがありました。

 

サイコ・オンコロジーの専門家によると、「病気や治療に関して説明する時、一番大切なのは本人がその話をどう受け止めているか」であるということです。

 

医師やナースは、過不足なく説明できたか、相手が正しく理解できたかといった面に気を配りがちである。確かにそれも重要なのですが、学校で数学や英語を教えているわけではないということ。

 

よく理解したが、同時に不安感が募ってきたり、生活上の心配が出てきたり......。そういう相手を前にして、「ちゃんと理解できて、よかった」と満足しているようでは、医療者失格なんですね。

 

患者は不安や悲しみのあまり、「嫌な話は聞きたくない」という気持ちが働いて、結果として何も耳に入らない時もあります。そういった場合に、「この人、なかなか理解してくれない」と焦って説明を急ぐのも、非常にまずい接し方です。

 

また、心を病んだ人や病みかけた人は、普通以上に他人の言葉に敏感になっています。不用意な言葉が相手を傷つけてしまうことも多いので、よくよく注意する必要があるでしょう。

 

これは私の友人の体験なのですが、彼女が数年前に乳癌の手術を受けた時、ナースのひと言に青ざめるほどショックを受けたそうです。
「乳房は生存に必要な器官ではないから、切除しても大丈夫」という意味の言葉だったらしい。ほかの臓器癌と比較して慰めたつもりでしょうが、女性にっては同じ体の一部ではあっても、乳房には特別の思いがあるのでしょう。

 

安易な励ましは逆効果

そのほか、「持続的に「気持ちの理解」を示すこと」も大切なんですね。

 

医療者は絶えず患者を励ましたり、なだめたりしますが、安易な励ましは逆効果になりやすいそうです。

 

落ち込んでいる時に「大丈夫ですよ。頑張りましょうね」などと明るく言われると、ますますつらくなる。場合によっては、「何だ、このナースは。入ごとだと思って、調子のいいことばかり言って」と、不快感を持たれかねないです。自分に置き換えるとよくわかりますよね。

 

それよりも、「相手の気持ちの理解」なのである。全面的に理解できるはずはないが、つらさや不安に付き合うこと、それも告知を受けた日」「手術の前日」など断片的にではなく、持続的に付き合うのが癌患者ケアの基本。

 

気持ちの理解といえば、一番よく理解できるのは同じ体験をした「患者同士」だろう。ボランティアで患者の会の世話をしているナースは、「ほとんど勉強をしに行っているみたいなものです」と話していました。
その会は、喉頭癌や上顎癌など首から上の癌で手術した人達の小さな集まりなのですが、「皆さん、ここに来ると元気が出ると言っておられます。自分の体験を話したり、よそでは言いにくい懲痴を言ったりして、スッキリなさるみたい」

 

抗癌剤治療のつらさも、無喉頭発声の苦労や好奇の目で見られる恥ずかしさも、理解してくれる人達がいます。それがどれほど患者にとって励ましになり、精神状態を好転させるか、しみじみ分かったそうです。

 

癌告知後の「心の推移」

癌と知らされた患者の心は、一般に「衝撃→不安→適応」という形で変化すると言われます。知った直後はショックのあまり蓬然自失状態になり、これが2-3日続く。その後1-2週間は不安や動揺、無力感にさいなまれる状態が続き、やがて落ち着くというわけです。

 

これはあくまでも一般論。心の領域はモノサシで測ったり理屈で割り切ったりできないことが多いので「こういう経過をたどるはず」と思い込まないほうがいいです。

 

精神医学や心理学を学んだナースは、時折、「心のことは分かっているつもり」になってしまい、かえって落とし穴に陥るから要注意ですね。

 

「この人は二番目の不安の段階なのだから、不安定なのは当然」などと高をくくっていると、うつ病の発症を見逃してしまったりするからだそうです。

 

それに「当たり前の反応」だからといって、何もしなくていいわけではなくて、不安が長引いて、本当に心の病気になってしまわないように予防に努めるのが、告知後のナースの役割でなんだろうなぁ、と思ったしだいです。
患者さんと 一緒に悩むのも大事な看護

 

     

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